経口補水液の作り方|手作りは「応急用」・市販品との違いと正しい使いどきを小児科医が解説
- 2024年3月6日
- 星空栄養だより

お子さまが嘔吐や下痢、発熱で水分が摂れないとき、脱水を防ぐ強い味方が「経口補水液」です。手元に市販品がない場合は、水500ml・砂糖20g・塩1.5gで応急的に手作りすることもできます。ただし手作りはあくまで一時しのぎで、嘔吐・下痢が続くときは成分バランスの整った市販の経口補水液が適しています。この記事では、作り方だけでなく「いつ使うか」「市販品と何が違うか」「どんなときに受診すべきか」まで、小児科医の視点でまとめました。
経口補水液とは?「飲む点滴」といわれる理由
経口補水液(ORS:Oral Rehydration Solution)は、水に電解質(塩分など)と糖分を、体に吸収されやすいバランスで溶かした飲み物です。小腸では、ナトリウムとブドウ糖が一緒にあると水分の吸収が効率よく進む仕組みがあり、経口補水液はこの仕組みを利用して、失われた水分と塩分をすばやく補給できるように設計されています。
日本小児救急医学会の「小児急性胃腸炎診療ガイドライン」でも、脱水のない場合や軽度〜中等度の脱水では、経口補水液を用いた経口補水療法(ORT)が初期治療として推奨されています。点滴のように針を刺す必要がなく、ご家庭で始められることが大きな利点です。
一方で、ぐったりして水分がまったく摂れない、意識がはっきりしないなどの重い脱水が疑われる場合は、経口補水液で様子を見るのではなく、すみやかに医療機関での治療(点滴など)が必要です。経口補水液は「軽いうちに脱水の進行を食い止めるためのもの」と考えていただくとよいでしょう。
手作り経口補水液の作り方(応急用レシピ)
市販の経口補水液が手元になく、夜間などですぐに買いに行けない――そんなときのために、ご家庭にある材料で作れる応急用のレシピを知っておくと安心です。
材料(500ml分)
・水:500ml(湯冷ましでも可)
・砂糖:20g(上白糖で大さじ約2杯強)
・塩:1.5g(小さじ約1/4)
・お好みで:レモンやグレープフルーツの果汁少々(飲みやすくなり、カリウムの補給にもなります)
作り方
①清潔な容器(500mlのペットボトルでも可)に水を入れます
②砂糖と塩を加えます
③よく振り混ぜて、完全に溶けたらできあがりです
計量が正確であることがとても大切です。砂糖や塩が多すぎても少なすぎても、水分の吸収効率が落ちたり、体に負担をかけたりすることがあります。目分量ではなく、計量スプーンやはかりを使って作ってください。
保存の注意
手作りの経口補水液には保存料が入っておらず、糖分を含むため雑菌が繁殖しやすい飲み物です。作ったものは冷蔵庫で保管し、その日のうちに使い切ってください。飲み残しを翌日に持ち越すのは避けましょう。
手作りはあくまで「応急用」。市販の経口補水液との違い
ここが本記事でいちばんお伝えしたいポイントです。手作りの経口補水液は便利ですが、市販品の代わりが完全に務まるわけではありません。
成分バランスの違い
市販の経口補水液(OS-1など)は、脱水時に失われる電解質を補えるよう、ナトリウム・カリウム・ブドウ糖などの濃度が細かく設計されています。一方、砂糖と塩だけで作る手作り経口補水液には、カリウムなどの電解質がほとんど含まれません。嘔吐や下痢を繰り返しているときは、ナトリウムだけでなくカリウムなどのミネラルも多く失われるため、成分の整った市販品のほうが適しています。
濃度のばらつき
手作りでは、どうしても計量の誤差が生じます。濃すぎれば腸に負担がかかり、薄すぎれば塩分の補給が不十分になります。市販品なら常に一定の濃度で安心です。
衛生面
市販品は無菌的に製造・密封されていますが、手作りは作る過程で雑菌が入る可能性があり、日持ちもしません。
以上から、当院では「まず市販の経口補水液を基本とし、手に入らない場面での一時的なつなぎとして手作りを活用する」ことをおすすめしています。手作りで応急対応をしたあとは、早めに市販品を用意していただくか、症状が続く場合は医療機関にご相談ください。
飲ませ方と量の目安
経口補水液は「一気にたくさん」ではなく「少しずつ、こまめに」が原則です。特に吐き気があるときに一度に飲ませると、かえって嘔吐を誘発してしまいます。
嘔吐があるときの飲ませ方
・ティースプーン1杯(約5ml)程度のごく少量から始めます
・5分ほど間隔をあけながら、繰り返し与えます
・吐かずに飲めるようであれば、少しずつ1回の量を増やしていきます
・飲んだ直後に吐いてしまっても、少し時間をおいてまた少量から再開します
1日あたりの量の目安
市販の経口補水液では、年齢別の摂取目安として次のような量が示されています(体調や脱水の程度により幅があります)。
・乳児:体重1kgあたり30〜50ml/日
・幼児:300〜600ml/日
・学童以上:500〜1000ml/日
あくまで目安であり、お子さまの様子(おしっこの回数、元気さ、口の渇きなど)を見ながら調整してください。判断に迷うときは受診時にご相談いただければ、体重や症状に合わせた量をお伝えします。

経口補水液が活躍する場面
感染性胃腸炎(嘔吐・下痢)のとき
ノロウイルスやロタウイルスなどによる感染性胃腸炎には特効薬がなく、水分・電解質を補いながら回復を待つ対症療法が基本です(厚生労働省も、特に小児や高齢者では脱水を起こさないよう水分と栄養の補給を十分に行うことを呼びかけています)。吐き気が落ち着いてきたタイミングで、経口補水液を少量ずつ始めましょう。無理に食事を摂らせる必要はありません。感染性胃腸炎の症状や受診の目安については、当院の感染性胃腸炎のページで詳しくご案内しています。
発熱で水分が摂れないとき
高熱が続くと、汗や呼吸から失われる水分が増えます。食欲がなくても水分だけは切らさないよう、経口補水液を活用してください。
熱中症が心配なとき
大量に汗をかいたときは、水分と同時に塩分も失われています。環境省の熱中症環境保健マニュアルでも、大量の発汗時には塩分を適切に補える経口補水液などの活用が挙げられています。炎天下の外遊びやスポーツのあと、めまいや頭痛などのサインがあるときは、涼しい場所で休ませながら経口補水液を飲ませましょう。ふだんの水分補給の考え方は、水分補給についての記事も参考になさってください。
スポーツドリンクとの違い
スポーツドリンクは糖分が多く塩分が少ないため、嘔吐・下痢や脱水のときの水分補給には向きません。「元気なときの運動時はスポーツドリンクでもよいが、脱水が心配なときは経口補水液」と覚えておくとよいでしょう。逆に、経口補水液は塩分が多いため、元気なお子さまが日常の水分補給としてがぶがぶ飲むものではありません。
こんなときは受診を――脱水のサインと受診目安
経口補水液での家庭ケアを続けてよいか、受診すべきかの目安です。次のようなサインがあれば、脱水が進んでいる可能性があります。
早めの受診をおすすめするサイン
・おしっこの回数・量がいつもより明らかに少ない(半日以上出ていない)
・唇や口の中が乾いている
・泣いても涙が出ない
・経口補水液を少量ずつ与えても嘔吐を繰り返し、ほとんど飲めない
・下痢や嘔吐が2日以上続いている
すぐに医療機関へ(夜間・休日でも)
・ぐったりして呼びかけへの反応が鈍い、うとうとして起きない
・目が落ちくぼんでいる、顔色が悪い
・けいれんを起こした
・便に血が混じる、強い腹痛を訴える
・生後3か月未満の赤ちゃんの発熱・嘔吐・下痢
乳幼児は体が小さいぶん脱水が急に進みやすく、「様子を見ているうちに悪化した」ということが起こりえます。迷ったときは、遠慮なくかかりつけ医にご相談ください。
よくある質問(FAQ)
Q1. 水やお茶ではだめですか?
水やお茶だけでは、失われた塩分(電解質)を補うことができません。嘔吐・下痢・大量の汗などで脱水が心配な場面では、塩分と糖分をバランスよく含む経口補水液が適しています。ふだんの水分補給であれば水やお茶で問題ありません。
Q2. 子どもが経口補水液を嫌がって飲みません
独特の塩味を嫌がるお子さまは少なくありません。よく冷やす、レモン果汁を少し加える、ゼリータイプの市販品を試す、といった工夫があります。脱水が軽い場合には、本人が飲めるものを優先してこまめに水分を摂らせることが大切な場合もあります。何をどのくらい飲ませるべきか迷うときは、受診時にご相談ください。
Q3. 手作りの経口補水液は作り置きできますか?
できません。保存料が入っておらず雑菌が繁殖しやすいため、冷蔵庫で保管し、その日のうちに使い切ってください。
Q4. 赤ちゃんにも飲ませてよいですか?
乳児にも経口補水液は使えますが、月齢や体重によって適切な量が異なります。特に生後3か月未満の赤ちゃんの嘔吐・下痢・発熱は、ご家庭で様子を見ずに早めに受診してください。母乳を飲んでいる場合は、母乳は続けて構いません。
Q5. 元気なときに予防として飲ませてもよいですか?
経口補水液は塩分が比較的多い飲み物なので、脱水の心配がない元気なときに日常的に飲むことはおすすめしません。ふだんは水やお茶・食事で十分です。「脱水が心配な場面で使う」ものとお考えください。
まとめ
・経口補水液は、水分と塩分を効率よく吸収できる「飲む点滴」。軽度〜中等度の脱水では家庭での経口補水療法が推奨されています
・手元にないときは、水500ml+砂糖20g+塩1.5gで応急的に手作りできます(正確に計量し、その日のうちに使い切る)
・ただし手作りはカリウムなどが不足する応急用。嘔吐・下痢が続くときは市販の経口補水液が基本です
・飲ませ方は「少量ずつ、こまめに」。スプーン1杯から始めましょう
・おしっこが出ない・ぐったりしている・飲めても吐き続けるなどのサインがあれば、経口補水液にこだわらず受診してください
受診のご案内
星空こども・アレルギークリニックは、宝塚市・西宮市北部エリアのお子さまの体調不良に対応する小児科・アレルギー科のクリニックです。嘔吐・下痢・発熱時の水分の摂らせ方や脱水の見きわめについても、診察の際に具体的にアドバイスいたします。また、管理栄養士による栄養相談(水曜日14:30〜15:30・予約優先)では、体調不良時の食事や離乳食のお悩みにもお応えしています。お子さまの飲み物・食べ物の進め方についてはこの食べ物いつからOK?の記事もご覧ください。
監修・医師紹介
星空こども・アレルギークリニック
院長 塚本 容子(つかもと ようこ)
日本小児科学会認定 小児科専門医/日本アレルギー学会専門医/エピペン処方登録医/免疫療法薬登録医(舌下免疫療法)/コンサータ・ビバンセ処方登録医(ADHD治療薬)/大阪府発達障がい精神科医師養成研修修了認定
1999年兵庫医科大学卒業。神戸大学医学部附属病院小児科、兵庫県立こども病院、神奈川県立こども医療センター、国立成育医療研究センターアレルギー科など、小児医療の中核施設で研鑽を積む。専門は小児アレルギー(アトピー性皮膚炎・食物アレルギー・気管支喘息)。現在も大阪精神医療センター児童思春期精神科で発達外来を担当(木曜午前)。所属学会は日本小児科学会・日本アレルギー学会・日本小児精神神経学会。
気になる症状は自己判断せず、お気軽にご相談ください。
参考文献
・日本小児救急医学会「エビデンスに基づいた子どもの腹部救急診療ガイドライン2017 第Ⅰ部 小児急性胃腸炎診療ガイドライン」(Mindsガイドラインライブラリ)
