乳児の消化管アレルギー(食物蛋白誘発胃腸症)|赤ちゃんが卵を食べて吐いたときの受診目安
- 2026年8月28日
- クリニックだより

赤ちゃんが卵(特に卵黄)やミルクを口にして1〜4時間ほどたってから、繰り返し吐いてしまう。そんなときは「乳児の消化管アレルギー(新生児・乳児食物蛋白誘発胃腸症)」の可能性があります。じんましんなどの皮膚症状が出ないため、風邪や胃腸炎と間違われやすい病気です。このページでは、症状の特徴とあわせて、「どんなときに救急車を呼ぶべきか」「どんなときは診療時間内の受診でよいか」が一目で分かる受診目安チェックリストをご用意しました。
消化管アレルギーとは?(「遅れて吐く」タイプのアレルギー)
消化管アレルギーは、正式には「新生児・乳児食物蛋白誘発胃腸症」と呼ばれる病気で、海外ではFPIES(食物蛋白誘発胃腸炎症候群)として知られています。食べ物のたんぱく質に対して、主に消化管(胃や腸)で炎症が起こるタイプの食物アレルギーです。
一般によく知られている「即時型」の食物アレルギー(食べてすぐにじんましんや咳が出るタイプ)とは、次の点が異なります。
症状が出るまでに時間がかかる:
原因の食べ物を口にしてから、およそ1〜4時間後に嘔吐が起こるのが典型的です
じんましんなどの皮膚症状を伴わないことが多い:
「アレルギーらしい見た目」がないため、見逃されやすいのが特徴です
血液検査(IgE抗体検査)では診断できないことが多い:
即時型とは異なる仕組み(非IgE依存性)で起こるためです
「同じ食べ物のときだけ、決まって数時間後に吐く」というパターンの繰り返しが、この病気に気づく大切なサインです。感染性の胃腸炎は家族にもうつったり数日で治まったりしますが、消化管アレルギーは特定の食品を食べたときだけ症状が出る点が手がかりになります(感染性胃腸炎について)。
どんな食べ物が原因になるの?
新生児期(生後1か月前後)に発症するお子さまでは、ミルク(牛乳たんぱく)が主な原因です。一方、離乳食が始まってから発症するお子さまでは、日本では鶏卵、特に卵黄が原因として最も多いことが報告されています。国立成育医療研究センターなどの全国調査(対象225名)では、原因食物の半数以上が鶏卵で、その9割以上が卵黄によるものでした。鶏卵が原因のお子さまの発症月齢は中央値7か月、つまり離乳食で卵黄を進める時期に重なります。
そのほか、大豆・小麦・魚類・貝類なども原因になることがあります。「卵黄を食べた日の午後に決まって吐く」「離乳食のあの食材のときだけ様子がおかしい」と感じたら、食べたものと時間をメモしておくことが診断の大きな助けになります。離乳食の進め方に不安がある方は、この食べ物いつからOK?の記事も参考にしてください。
症状別の受診目安チェックリスト
赤ちゃんが吐いたとき、いちばん知りたいのは「今すぐ病院に行くべきかどうか」だと思います。以下のチェックリストを上から順に確認してください。上の項目に1つでも当てはまれば、より緊急性の高い対応をおすすめします。

【1】すぐに救急要請(119番)を検討する症状
・ぐったりして、呼びかけへの反応がいつもより明らかに弱い
・顔色が真っ青・真っ白、唇や手足の色が悪い
・手足が冷たく、体に力が入らない
・意識がもうろうとしている、目の焦点が合わない
・けいれんを起こした
・嘔吐が止まらず、水分をまったく受けつけない
消化管アレルギーでは、嘔吐を繰り返した結果、脱水やショックに近い状態(顔色不良・ぐったり)に至ることがあります。この段階では点滴などの処置が必要になる場合があるため、ためらわずに救急要請をしてください。
【2】当日中に受診してほしい症状(夜間・休日は救急外来や「こども医療電話相談 #8000」へ)
・嘔吐を2回以上繰り返している
・嘔吐に加えて、下痢や血の混じった便がある
・水分は少し飲めるが、おしっこが半日以上出ていない(脱水のサイン)
・嘔吐のあと、うとうとして元気がない状態が続く
・過去にも同じ食品で嘔吐したことがあり、今回も同じ食品のあとに吐いた
判断に迷うときは、厚生労働省の「こども医療電話相談(#8000)」で夜間・休日でも看護師等に相談できます。嘔吐が続くあいだは無理に飲食させず、落ち着いてから少量ずつ水分を与えてください(経口補水液の作り方はこちら)。
【3】通常の診療時間内にご相談いただきたい症状
・1回吐いたが、その後は機嫌がよく、母乳・ミルク・水分が飲めている
・特定の食品を食べた日に、毎回のように機嫌が悪くなる・軟便や下痢になる
・特定の食品のあとに吐いたことが一度あり、また食べさせてよいか迷っている
・嘔吐や下痢を繰り返していて、体重の増えが気になる
・血液検査は異常なしと言われたが、特定の食品で調子が悪くなる気がする
「様子を見てよいのか、受診すべきなのか」の線引きは難しいものです。当てはまるか迷った場合も、遠慮なくご相談ください。
受診のときに教えていただきたいこと(メモのお願い)
診断には、ご家庭での情報がなによりの手がかりになります。可能な範囲で次の点をメモしてお持ちください。
・何を・どのくらい食べたか(例:固ゆで卵黄を耳かき1さじ)
・食べてから症状が出るまでの時間
・嘔吐の回数と様子、下痢・血便の有無(便はスマートフォンの写真でも構いません)
・同じ食品で症状が出たのは初めてか、繰り返しているか
・母子手帳・お薬手帳
検査・診断について
消化管アレルギーは、即時型アレルギーと違って血液検査(特異的IgE抗体検査)だけでは診断できないことが多い病気です。診断は、診療ガイドラインに沿って次のような手順で進めます。
①詳しい問診:
食べたもの・時間・症状の経過から、原因食物の見当をつけます
②食物除去試験:
疑わしい食品をいったんやめて、症状が出なくなるかを確認します
食物経口付加負荷試験:
医師の管理のもとで原因と疑う食品を少量から食べて、症状の有無を確認します。診断の確定や「食べられるようになったか」の判定に用います。
当院ではアレルギー専門医のもとで食物経口負荷試験を実施しています。「検査で異常がないのに繰り返し吐く」というお子さまこそ、一度ご相談いただきたいと考えています。血液検査だけでは診断が難しいアレルギーですが、当院では患者さまの症状に合わせて検査を検討し、比較的症状が軽い「軽症」のケースであれば、院内にて食物経口負荷試験を行うことが可能です。お子さまの嘔吐や血便など、消化管アレルギー(FPIES)が疑われる症状でお悩みの場合は、まずは一度当院の専門外来へご相談ください。
消化管アレルギー(FPIES)が疑われる場合も、症状が比較的軽いケースでは院内で食物経口負荷試験を行うことがあります。食物アレルギー全般の検査の考え方は食物アレルギーの特徴や検査についてでも解説しています。
治療と長期的な管理

治療の基本は、原因と診断された食物を必要最小限の範囲で除去することです。ここで大切なのは「自己判断で幅広く除去しすぎない」ことです。成長期の赤ちゃんにとって、不必要な食物除去は栄養面のデメリットにつながるおそれがあります。何を・いつまで除去するかは、必ず医師と相談しながら決めていきましょう。
消化管アレルギーの多くは、成長とともに原因食物が食べられるようになる(耐性を獲得する)と報告されています。時期には個人差がありますが、定期的に負荷試験で確認しながら、食べられる時期を見極めていきます。「ずっと食べられないのでは」と不安になりすぎる必要はありません。除去中の離乳食の進め方や栄養バランスについては、当院の栄養相談もご活用いただけます。
よくある質問(FAQ)
Q1. 卵を食べて吐きましたが、じんましんは出ていません。アレルギーではないのでしょうか?
じんましんが出なくても、食物アレルギーの可能性はあります。消化管アレルギーは皮膚症状を伴わないことが多く、嘔吐や下痢だけが症状のこともあります。「特定の食品のあとに繰り返し吐く」場合は、一度ご相談ください。
Q2. 血液検査で「卵は陰性」と言われました。それでも卵が原因のことはありますか?
あります。消化管アレルギーは血液検査(IgE抗体検査)に反映されないことが多いタイプで、検査が陰性でも卵黄などが原因のことがあります。診断には食べた記録と、医師の管理下での負荷試験が重要です。
Q3. 吐いたあと、家ではどうすればよいですか?
まず【症状別の受診目安チェックリスト】で緊急度を確認してください。ぐったりしている・顔色が悪いなどがあれば救急要請を。落ち着いている場合は、吐き気がおさまってから少量ずつ水分(母乳・ミルク・経口補水液など)を与え、様子を見ながら受診をご検討ください。
Q4. 原因の食べ物は、いつか食べられるようになりますか?
多くのお子さまは成長とともに食べられるようになると報告されていますが、時期には個人差があります。自己判断で試すと強い症状が出るおそれがあるため、食べられるようになったかどうかの確認は、医師の管理下での食物経口負荷試験で行うことをおすすめします。
Q5. 離乳食で卵黄を始めるのが怖くなってしまいました。遅らせたほうがよいですか?
心配なお気持ちはとてもよく分かります。ただし、開始を自己判断で遅らせることが予防につながるとは限りません。ご家族にアレルギーの心配がある場合や、始め方に迷う場合は、開始前にご相談いただければ、お子さまに合わせた進め方を一緒に考えます。
まとめ
乳児の消化管アレルギー(新生児・乳児食物蛋白誘発胃腸症)は、卵黄やミルクなどを食べて1〜4時間後に繰り返し吐くことが特徴の、見逃されやすいアレルギーです。じんましんが出ない・血液検査で分からないことが多いため、「食べたものと症状のパターン」に気づくことが診断への近道です。ぐったりする・顔色が悪いなどの症状があればためらわず救急要請を。そうでない場合も、チェックリストを参考に、早めに小児科・アレルギー科へご相談ください。
受診のご案内
当院は宝塚市のアレルギー科・小児科クリニックです。宝塚市内はもちろん、西宮市など近隣にお住まいの方も多く受診されています。小児アレルギーを専門とする院長が、食物経口負荷試験を含めた診断・管理まで一貫して対応いたします。「同じ食べ物のあとに吐く気がする」という段階でも構いませんので、お気軽にご相談ください。
監修・医師紹介
院長 塚本 容子(日本小児科学会認定 小児科専門医/日本アレルギー学会専門医)。神戸大学医学部附属病院小児科・兵庫県立こども病院・国立成育医療研究センターアレルギー科などで研鑽を積み、小児アレルギー(食物アレルギー・アトピー性皮膚炎・気管支喘息)を専門としています。詳しいプロフィールは医師紹介ページをご覧ください。気になる症状は自己判断せず、お気軽にご相談ください。
参考文献
- 厚生労働省好酸球性消化管疾患研究班「新生児・乳児食物蛋白誘発胃腸症 診療ガイドライン(実用版)」(Mindsガイドラインライブラリ):https://minds.jcqhc.or.jp/common/summary/pdf/c00441.pdf
- 国立成育医療研究センター「日本の小児における食物タンパク誘発胃腸炎の実態が明らかに」(2024年4月):https://www.ncchd.go.jp/press/2024/0423.html